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石井ゆかり@筋トレのブログです。
『星読み』もよろしく!

旅の記憶

昨日、見に行った、というか聴きに行った、
岸田繁 交響曲第一番 初演。

(折らないとハンドバッグに入らなかったのでこうなった--;)


クラシックは私は全然詳しくないのだが
とても引き込まれた。
涙が出たり、胸が熱くなったりした。
いいことがあったときの「喜び」とはべつの「歓び」で
身体がしびれた。
こういう、身体的な歓びというものがあったなあ
しばらく忘れていたなあ
と思った。


この、
パンフレットのデザインがとてもイイと思うのだが
このクジラの絵を見たせいか
音楽を聴いているときずっと
ドリトル先生シリーズの、3つくらいのエピソードが
頭の中に展開されていった。


ドリトル先生は医者で博物学者で、
動物と話ができるので
世界中の動物たちにその噂が広まって
あちこちの動物から「病気を治しに来てください」と呼ばれるのだ。
先生も旅が好きで、船を操ってどこまでも出かけていく。
だけど、ある時の旅では、
大冒険の果てに、いろいろあって帰れなくなってしまう。
そこで、大きな「大ガラス海カタツムリ」が出てきて、
透明なガラスの殻の中にドリトル先生を入れて、
潜水艦のようなかたちでイギリスに帰るのだ。
透明な潜水艦みたいなものだから、
旅の間、海の中がずっと見え続けている。
地上の生き物にとっては「秘密の世界」「謎の世界」だ。
海の中、幾多の生き物の秘密がダイナミックに躍動する、
そういう神秘的なイメージが
なぜか、音楽を聴きながら、頭の中にずっと展開していた。


さらに、第4楽章、第5楽章のあたりでは
カメのドロンコのエピソードが思い浮かんだ。
とても年寄りのドロンコは、
ノアやその方舟を「見た」カメなのだ。
ドリトル先生は、カメが物語る古代の話を
興味津々でききまくる。
ドロンコが見た大洪水、そのおわり、新しい大地の伝説が
音楽の中から、湧き出てくるみたいだった。


人間はアフリカで発生して全世界に広がった
と考えられている。
私たちの祖先は、旅をして旅をして
その旅の果てに、今の私たちの世界があるわけだ。
幾多の神話や伝説は、そうした祖先達の旅の記憶を語るが
交響曲もまた、そうした旅の記憶に繋がっているのかなあ
と思った。
偶然、最近レヴィ・ストロースの「神話と音楽」という文章を読んでいたから
そんなことを思ったのかもしれない。


「神話と音楽」には
フランスの作曲家のミヨーの話が書かれている。
「彼(ミヨー)が子どもだった頃のことです。
ベッドの中で少しずつ眠りに落ちようとしているとき、
ある音楽が聞こえてきて、
彼はそれに耳を傾けました。
しかしそれは、いままでに聞いたこともないような音楽でした。
ミヨーはのちになって、
それがすでに自分で作った音楽だったことに気づいた、
と言うのです。」
昨日、開演前にこのツイートを読んで


上の一文を思い出したのだった。


もとい、岸田氏の頭の中でそういうことが起こっていたのかどうかはわからないけど、
頭の中に音楽がある
というのは
すごいなとおもった。
どういうかたちだったにせよ
「ある」から「書ける」わけだ。
ないものは書けないだろう。


上記のミヨーの話は、
自分も音楽家になりたかったレヴィ・ストロース
「いつから作曲家になろうとおもったの?」
みたいに聞いたときの返事だった。
レヴィ・ストロースは自分でも作曲家か指揮者になろうと頑張ったが
「私の頭にはなにか欠けているものがあって、
作曲家にはなれませんでした。」
と言った。
私も子どもの頃、合唱をやったりしていたけど
やればやるほど
「本当に音楽ができる人というのは、自分とは完全に違うなにかを持ってるんだな」
と思った。
努力とかでは得られない何かがあって
だからこそ
「何か」を持っている人たちは
音楽をやらなければいけないんだな
と思った。



恥ずかしながら知らなかったのだが
京都市交響楽団は日本で唯一の自治体直営のオーケストラなのだ。
指揮者の広上淳一さんのファンになってしまった。
上記の妄想をしながら聞いていたので
だんだん広上さんがドリトル先生に見えてきたりした
ドリトル先生もフルートが上手なんだよねそういえば)。
ピアニカを弾く姿がとてもかっこよかった!


合唱をやっていたとき
たまに、オーケストラと歌う機会があった。
「今回はオケが入りますから」と先生が言うと
みんなが特別な雰囲気を感じて色めき立ったのをおぼえている。
大きな音の渦に巻き込まれながら音を出すのは
ちょっとおかしくなるくらい、気持ちがいい。
危険な感じさえする。
人間が集団になって歓びを感じる、という現象は
ある種の危険をはらんでいる。
それほど、その歓びの威力は、大きくて強い。


しかし、頭の中にあるものが
実際に、自分以外の人々の手でこんなふうに大きく「立ち上がる」というのは
一体どんな気持ちなのだろう。
舞台の上でスタンディングオベーションをうけていた岸田さんは
(髪型が変わってて最初みんな誰か解らなくてざわついていた。
いとうせいこうさんかとおもった(違))
感動なのか、緊張なのか、
何度か見たライブでの姿とは全然違う
とてもフレッシュな感じできらきらしていた。


旅と戦いと、その明け暮れの記憶。
岸田さんがマイクを取って歌ったのは
「宿はなし」だった。
https://www.youtube.com/watch?v=1Z3SbGSbuZo