石井ゆかり@筋トレのブログです。
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インタビューその3・古町糀製造所さん


インタビューシリーズ@新潟、第3弾は、
上古町商店街の、なかほどより白山神社に少し寄ったあたりにある
古町糀製造所のスタッフ、持田さんにお願いした。


ここは、甘酒屋さんである。
といっても、
初詣の時などに飲む、あの甘酒とは違う。

普通の甘酒は、酒粕とお砂糖でつくる。
酒粕にはアルコール分が残っているので
飲むと、ふわっと軽い、和紙のような酔いが回る。


でも、この古町糀製造所さんの「甘酒」は、
酒粕ではなく、「糀(こうじ)」で作るのである。
「糀」は、お酒をつくる「もと」のようなもので、
穀物にコウジ菌を繁殖させたもののことだ。
つまり、お酒を醸す前の段階だから、
まだ、アルコールはいっさい、含まれていない。
だから「赤ちゃんでも飲めます」と持田さんは言った。
また、アルコールは糖からできるわけだが
糖がアルコールにかわるまえの状態なので、十分に甘いのだ。


普通の甘酒:「酒粕+おさとう」
糀製造所さんの甘酒:「糀だけ」


ということになる。


さらに言えば


普通の甘酒:「終わった後の材料」
糀の甘酒:「始まる前の材料」


とも言える。
味はとても似ているが
全く違ったものなのだ。



お砂糖が入っていない、という事実に、
まったく気づかないほど、甘い。
私はこの糀の甘酒を二度ほど飲んだが、
砂糖が入っていない
ということに気づいたのは
二度目に飲み終わって、持田さんにお話を聞いているときだった。
そのくらいしっかり甘みがあるのだ。

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わたしがインタビューに伺った日は、
冬だというのに、春のように暖かい日だった。
ほどよくお日様が照っていて、
みんな待ってましたとばかりに外に出ている感じで
街をゆく人々の表情もこころなしか、笑みが多かった。
新潟はお天気が変わりやすい。
人々の心はお天気に敏感に反応する。
挨拶程度の天気の話に、「本気」がこもる。


お店はスタンド形式で、中に5人ほど座れる板のベンチがある。
そこに、2人の若い女性が座って甘酒を飲んでいた。
さらに、自転車に乗って瓶で何本かまとめ買いしに来た女性が
外で荷物ができるのを待っていた。


私は、お客さんがはけてから声をかけようと思い、
待つあいだ、自分もお客さんの一人として、甘酒を飲むことにした。


甘酒には、いろんなフレーバーがある。
プレーン
ショウガ
きなこ
あずき
ゆず
等々。
ホットは勿論、アイスでも飲める。
さらに、アイスクリームまである。



私は、前回同様、ホットのショウガを選んだ。
どうもこういうときは、保守的になってしまう。
何度も同じものを頼んでから
ある日突然、別のものを試す
という行動パターンがある。


こうした場合の「行動パターン」は、人によってずいぶん違う。
たとえば、私の妹はこういうとき、
できるだけ珍しいもの、おもしろそうなもの、見慣れないものを選ぶ。
知り合いには「全種類制覇」を目標に掲げる人もいる。
珍しいものを目の前にしたときのこうした個性は
それこそ、星占いで説明できそうだ。
私の「慣れたものをくり返して、ある日突然違うものを選ぶ」のは
いかにも蟹座っぽい
と思うのだが
どうだろう。


ちなみに「できるだけ珍奇なもの」を選ぶ(ように見える)我が妹は
水瓶座だ。
なんとなく、納得。



ショウガを一杯ください


とお願いし、お店のすみっこに座って
ちびちびやりはじめた(しつこいようですが、アルコールは入っていません)。



しばらくして、スタッフの方に声をかけると、
奥から持田さんが出てきて下さった。
その場で、お話を伺った。
お話ししているあいだも、ひっきりなしにお客さんが出入りしている。


持田さんは、ほっそりとしなやかな姿の、
透き通るような笑顔がきれいな、美人である。
お店に、彼女の持っている、
さらっとした清潔ですこやかな優しい雰囲気が
空気のように満ちている感じがした。
べたべたした装飾がない、すっきりしたお店の印象と
彼女の醸し出す雰囲気が、ぴったり合っている感じがした。


糀屋さん(とみんなが呼んでいるのでもうそう呼んじゃうことにする。愛称。)は
2009年の7月にできた。
だから、まだ1年経っていない。
でも、隣に座ったお客さんに
「こちらは有名なんですか」
と聞いてみたら
「そうですね、テレビなんかでもよく紹介されてますし」
とのことだった。
Webサイトを見たら、an・anなどの雑誌にも取り上げられたりしていた。
持田さんにも「かなりあちこちで紹介されてるんですね」と聞いてみたら
「そうですね、去年から、めまぐるしいほどでしたね」と笑った。


持田さんは、「いかにも新潟美人!」と言いたい雰囲気を持った人なのだが
じつは、新潟出身ではない。
ちょうどお店が始まるのと時を同じくして、新潟に来た。
それまではずっと、埼玉の川越にいた。


私はびっくりして、
「私も小学生の頃、川越にいたんです! 
 かっ、川越の、どこですか?」
と、ちょっと興奮して
そこからローカルネタでちょっとだけもりあがった。
イカラカラの平井さんも、そういえば、
ここに来る前は、所沢に住んでいたのだ。
どこにいってもなんとなく埼玉。
なぜか埼玉。
「なぜか埼玉」という、さいたまんぞうの歌を思い出した(特に意味はない


持田さんは、新潟に来る前も
飲食関係のお仕事をしていた。
その職場の同僚だった女性が、
転職して、この糀製造所のプロジェクトの責任者となった。
持田さんは、その女性に、いわばヘッドハンティングされたわけだ。


古町糀製造所を経営している会社は、東京・銀座のおにぎり屋さんだ。
社長さんは新潟出身の方で、
おにぎりのためのおいしいお米を求めて、新潟のお米を探求するうちに
この「糀」にたどりついたらしい。
本社は銀座にあり、
糀事業部の統括者である、持田さんの元同僚の女性は、
新潟に信用できるスタッフを必要としていたわけだ。


とはいえ、持田さんは、この仕事のために新潟に来たわけではない。
この仕事の話が来たとき、彼女はちょうど、
新潟の方との結婚を控えていたのだ。
そこで
彼女は結婚を機に新潟に移り住み、
ここでお店の立ち上げに携わることになったのだった。
まさに、機縁、というのはこういうことを言うのだろう。


全然知らない、初めての土地で、初めての仕事。
スターティングメンバーだ。
「大変だったんじゃないですか?」
と聞くと、
彼女は笑って、言った。
「いや、知り合いが居なかったから逆に、良かったと思います。
 友達もいないところで家にずっといるより、
 仕事があって良かったと思いますね」


このお店は週4日の営業で、常に2人のスタッフで、回している。
特に混み合う土曜日などは、二人でも回しきれなくて
外に長い列ができてしまうこともあるほど、人気が出た。


たしかに、店の前を通りかかると、ちょっと入ってみたくなる雰囲気がある。
あっさりしていて、外観がわかりやすい。
ファーストフードとか、こうしたスタンドで売るお店は
ときどき、注文の仕方とかがよくわからなかったり
システムが複雑そうで入りにくかったりすることもあるが
ここはいたってシンプルだ。
ガラス窓に開いた小さな窓口があって、
そこにいる女性に、欲しいものを言えばよい
ということがすぐにわかる。
引き戸は大きく開け放たれていて、
間口が広く、入っていくのに抵抗が全くない。


入ってくるお客さんは、勝手知ったるリピーターもかなりいるが、
「甘酒?こうじ?なんだろう?」
という面持ちでのぞき込む人が多かった。
のぞき込んで、そのまま行ってしまう人もいれば、
思い切って入ってきて
「初めてなんですが、どれがおすすめですか?」
と聞いている人もいる。


「私なんかも、糀というのはなじみがなかったんですが
 実は、新潟ではそうでもないらしいんです。
 スーパーなんかで、糀を普通に売ってたりするんですよ。
 だから新潟では『糀の甘酒』って言っても、
 それほど不思議なものではないんです」
と持田さんは言った。


なるほど。
私が思うほど、みんなが知らないわけじゃないのだ。


「ただ、お酒や味噌をつくるのに使う糀は、
 くず米を使って作ることがほとんどです。
 精米してお米として売ることができないものを、
 糀に使うわけですね。
 でも、ここの甘酒の糀は、
 一等米という、良いお米を使って作っているので、
 甘みも強いですし、しっかりした味になっています」


普通の糀ではやはり、こういう味にはならないわけだ。


持田さんと話をしている最中、
真っ白な髪をした80代くらいに見える小柄なお婆さんが、
杖をつきながら、よいしょ、と入ってきた。
そして
「私も飲んでみようかしら、
 二日おきに白山神社にお参りに来るんですけどね、
 いつも気になっていたのよ、
 どれがいいかしらね」
と、スタッフの方に話しかけた。


私は、そのとき、ちいさく打たれたような気がした。
そうか。
おばあちゃんになっても
「チャレンジ」は、したいのだ。
知らないことや珍しいものに触れてみたいのだ。
おいしいかまずいかわからない、飲んだことがない飲み物に
トライしてみたいのだ。


なんだろう、これは?
という、いたずらっぽい、勇敢な、
思い切った好奇心が
おばあちゃんの胸にも、少女のそれと同じように
きらりと弾むことがあるのだ。


お婆さんは「きなこ」を頼み、
出てきてくれたスタッフの方にちょっと助けてもらいながら
ベンチにうまく着陸した。
そして、出された「きなこの甘酒」をゆっくり飲み干して
「次はショウガを試してみるわね」
と言って
楽しそうに、ゆっくりとお店を後にした。


糀屋さんの糀は、
新潟県内の味噌蔵さんや酒蔵さんにお願いしてつくられている。
味噌に使う糀と、酒に使う糀は、全く違うのだそうだ。
持田さんは、
そうした蔵に出かけて行程を見たり、
商品企画の相談をしたりもする。
製造から販売スタッフまで、全ての流れを見ているわけだ。
私は「お仕事は、楽しいですか?」と聞いてみた。
「私は、学校でも食物関係を専攻してましたし、
 経験してきた仕事もすべて、食べ物の世界でした、
 もともと、そういうことが全般に好きなんです、
 だから、楽しいですね」
と、笑顔で答えてくれた。
実際、その笑顔は、とても楽しそうに見えた。
糀や甘酒の説明をするときも、
彼女の「楽しい、おもしろい」という気持ちが伝わってくるようだった。


お店の壁は、古い木でできている。
元々古い建物で、その壁をそのまま利用しているのかと思ったが
そうではなかった。
よく見ると、ひとつひとつが浅い箱のような形をしている。
「これは、『こへぎ』と言って、
 昔、糀を作るのに使われていたものなんです。
 味噌屋さんのものを、譲っていただいて、壁に使いました。
 風合いもいいですし、かすかに香りがしたりするんですよ」
と、持田さんが教えてくれた。


お客さんはひっきりなしに、出たり入ったりしている。
持田さんも驚くほど、この日は混んだ。
やがて、スタッフ一人では回らなくなってきて、
持田さんは「すみません」と言って持ち場に戻った。
私は隅っこで、お客のフリをしてお店の様子を眺めていた。


私の隣に40代くらいに見える三人の女性が座って、
それぞれ違うものを味わっていた。
「お醤油のアイス?」
「どんな味?」
「おだんごみたいなことよね、つまり」
なんて話している。
「しょうがってどんなの?」
「普通の甘酒にだってショウガすって入れるじゃないの」
「私やったことない」
店頭では、瓶に入った「さくら」の甘酒を買うかどうか
思案している女性がいる。
「こないだほら、桜のうつわを買ったでしょ、
 あれにぴったりじゃない?」
と、同行の女性が説得している。


選ぶ、という遊び。
知らない味を試す、という遊び。
なにかとなにかを組み合わせる、という遊び。
何気ない会話のなかで
みんながこの時間を楽しく遊んでいるんだ、と思った。
五感を働かせて、いろんな色や匂いや味で遊んでるんだ、と思った。
メニューを一つ一つ、読み上げている人がいる。
「・・・ショウガ、あずき、ゆず。ゆずなんかおいしそうじゃない?」
カップを片手に、壁際の私の目の前まで、2人の女の子が来て
「こへぎ」でできた壁をさわり、
説明書きを読んでいた。
「こうじをこれでつくってたんだって」
そう、彼女は言って、鼻を壁に近づけて、くんくん、と嗅いでみていた。
さっき私も同じことをしたなあ
と思った。


こういう光景をこんなふうにしみじみ眺めたことってなかった。
でも、こうしてゆっくり、見渡してみると
だれもが驚くほど無意識に、でも驚くほど熱心に
楽しみ、あそぶんだ、
と思った。
もちろん、「自分は今、遊んでいるんだ」なんて、
誰も思ってはいないと思う。
でも、これはたしかに、「たのしいあそび」としか言いようがない。
子供の頃、私たちは、砂場で遊び、ブランコで遊び、
お絵かきをして遊び、ツツジの蜜をなめて遊んだ。
それらはすべて、私たちの生まれたての五感を刺激することだった。
五感をおもしろく刺激することがすべて
「あそび」だったのだ。
あの真剣で夢中だった子供の頃の「あそび」と
ここでみんなが静かに、思い思いのやり方で楽しんでいることとは
全く同じことなんじゃないだろうか。


おばあちゃんから高校生くらいの女の子まで
みんながこうしてのんびり、
五感を楽しませて遊んでいる様子を静かに眺めながら
「充実した時間」とか「楽しい生活」っていうのは
肩肘張ってつくりあげるような、雑誌の中にあるようなものじゃなくて
ちゃんとこんなふうに、自然に、そこらじゅうにいきいきとあり得るのだ
と思った。


それはだれかに作ってもらうゲームじゃなくて
自分のやり方で遊ぶ、その心の中にあるのだ。
ここに来た人々はみんな
無意識に自分のやり方で遊んでいる。
見知らぬ味にチャレンジしてみよう、とか
匂いがするかどうか、嗅いでみよう、とか
メニューを全部読み上げて吟味してみよう、とか
できるだけ奇妙なものを選んでみよう、とか
あらゆる種類の「やってみよう」という自分だけの意志がそこにあって、
そこから、星の数ほどの、遊びが生まれているのだった。

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古町糀製作所さん
http://www.furumachi-kouji.com/